林業イノベーションへの挑戦者

釜石地方森林組合参事としてこれまで提案型施業集約化事業の全国12のモデル組合の認定や、J-verなどの先駆的な活動を行ってきた高橋幸男参事。東日本大震災を経て一度は事務所の再建を諦めかけたものの、再起を果たしました。現在は、人材育成や林業の6次化など、森林組合として新しい活動を牽引する挑戦者です。

山田町出身で、漁業家系に生まれた高橋参事。高校を卒業し、19歳のときに森林組合に入職しました。実際に働き始めて、家系が林業ではなかったことで、林業の業界における改善を要する点が目につきました。例えば日給月給制です。「管理側の職員は福利厚生もしっかりしておりボーナスも貰えるものの、天候に左右される現場で働く多くの先輩たちは稼働日数分だけの金額しかもらえない不安定な雇用に疑問を感じました。」と高橋参事は言います。「業界内にいると当たり前に感じてしまうことも、違う業界や違う職種の観点で見ると、当たり前ではないことも多い。だから現在も、視察や研修に訪れる人たちの率直な声を仕事の参考にするようにしています。」と話します。  東日本大震災では組合長を含む5名が亡くなり、事務所は全壊。他にも多数の組合員が被災し、「森林組合は合併してもらうしかない」と言われました。高橋参事自身も、「もうやめよう」と思っていましたが、組合員さんには「所有森林を自由に使って復旧につなげて欲しい」、亡くなった組合職員のご遺族からは「故人が生きた証として組合の経営を復旧して欲しい」という後押しがあり、「お世話になった山主さんに恩返しするためにも、いい山にして返したい。」という気持ちの変化が高橋参事の中に生まれました。

釜石地方森林組合の再スタートを切った高橋参事は、林業をより盛り上げるために様々なことに取り組み始めます。今までは木材を卸すだけでしたが、流通にも手を加えて林業を6次化することで、山林所有者と林業従事者の収入を増やし森林の資産価値を高めようとしています。具体的な取り組みとして、林業とは何かを知ってもらうための林業体験や、そもそも林業自体が持続可能な産業であるということを知ってもらい、林業の認知度を上げるためのきっかけとして、SDGs達成に向けても取り組んでいます。  高橋参事が震災後、この地域がどう変わって行かなければならないかを考えたとき、「新しい企業や産業を展開するのではなく、地場産業の人たちが自立しなければならない。」という結論に至りました。「そのためには、今までとは違った方向性から決断できる地域のリーダーを育てたい。森林を理解してもらい、地域の役に立ちたいという人を増やしたい。」と思うようになりました。そんな時、この想いに共感した、世界有数の金融機関であるバークレイズグループの協力を得て、全国でも稀な民間で主催する林業の人材育成スクールである「釜石・大槌バークレイズ林業スクール」を2014年に開講することになりました。林業スクールは2019年現在5年続いており、毎年全国各地から多くの受講者が集まっています。

他にも、削減努力をしても排出されてしまう二酸化炭素を、排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資することによって埋め合わせをする、というカーボンオフセットを、森林組合として日本で初めてクレジットを売買しました。「モデル組合として認定されていた組合だったこともあり、さらに『震災支援のために』というみなさんの協力もあって、全て売り切ることが出来ました。」と高橋参事は感謝の想いを語りました。  「震災以降行われてき様々な復興特需が終われば、木材のニーズも下がり、木材の物流量が減ることが明らかです。」と高橋参事は言います。そのため、参事は今後を見据えて、「これまでは木材を製材所に卸すところが事業の中心でしたが、これからは対顧客の川下まで、どうニーズを喚起することができるか考えていきたいです。そうすることで木材の流通量を増やし、復興特需以降の経済縮小でも森林所有者と林業従事者が一定の利益を上げられるようにしたいと考えています。」と今後規模を拡大していく上での展望を明らかにしました。

高橋参事は震災を経験して、一時は事務所の再建は諦めようと思ったものの、最終的には再スタートを決意して考え方が変わった経験から、「人は変われるんだ。」と思うようになったと言います。「一人の気持ちや考え方が変わっていくことによって、組織自体が変わっていくんです。」と実体験をもとに語りました。「また、釜石地方森林組合は現在SDGs達成に向けて取り組んでいます。持続可能な社会を創るために、林業から様々な人に発信し、共有できることもあるので、是非話を聞きに来て欲しいです。」そう語る高橋参事の目は、今日も林業の未来を見据えています。