根浜・箱崎白浜運営課では、根浜海岸を眼前に望む「根浜キャンプ場」と、漁村宿泊施設である「御箱崎の宿」の2つの施設の管理運営を担っています。どちらも、三陸の豊かな海に親しむことを目的とした観光施設。同運営課は、地域のコーディネーター役として、海とともに暮らす地域の方と、観光客をつなげる場づくりにも取り組んでいるそうです。インタビューでは、地域との様々な連携の形や、海の豊かさを守るためのサステナブルな取り組みについて、伺ってきました。
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佐藤 奏子
地域創生事業部
根浜・白浜尾箱崎運営課釜石に魅了され、東京からIターン。根浜キャンプ場と御箱崎の宿の管理責任者。施設管理全般のマネジメントや、幅広い人脈を活用して地域のコーディネーター役を担っている。フリーダイビングの資格も所有しており、シュノーケリングなどのマリンアクティビティガイドも担当する。
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三上 朗央
地域創生事業部
根浜・白浜尾箱崎運営課釜石市出身。元プロボクサーという経歴の持ち主。山岳ガイドやマリンアクティビティのガイドの資格を所有し、根浜を拠点とするアクティビティ全般の企画・ガイドを担当する。キャンプ場やグラウンドの整備やイベント運営の段取りをはじめとして、裏方としても施設の管理運営を支えている。
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小松野 麻実
地域創生事業部
根浜・白浜尾箱崎運営課釜石市出身。高校まで釜石で過ごし、東京の大学に進学。釜石に貢献したいという想いから、Uターンして、かまいしDMCに入社。会計や物販を担当するほか、マリンアクティビティのガイドも務めている。地元愛にあふれ、青年会議所や地域のお祭りの実行委員としても地域に貢献している。
まずは、皆さんの仕事内容について詳しく教えていただけますでしょうか。
三上さん:私は、キャンプサイトやラグビーグラウンドの施設管理を主に担当しています。子どもたちも遊びに来る多目的な場所なので、安心安全であるよう地道な手入れを心掛けています。他には、シーカヤック・SUP・トレッキングなどのガイドを務めています。個人的には登山経験が長いので、山の仕事の方が得意ですが、実際に手掛けている仕事量としてはマリンアクティビティが多いですね。
佐藤さん:根浜のキャンプ場の施設に関しては、三上さんが一番詳しいです。キャンプサイトもグラウンドも、除草剤を使わない、自然と共生しながら管理するスタイルであるため、非常に苦労が伴うのですが、それを一手に担ってくれています。
除草剤を使わない管理というのは、釜石市からの要望によるものでしょうか?
佐藤さん:いえ、地域の方との話し合いで自主的に設けたルールです。除草剤を使わないこと自体にこだわっているわけではなく、地域での議論を踏まえた運営が重要だと考えています。その他のサステナブルな取り組みも、できることから工夫して積み重ねています。例えば三上さんは、必要に応じて施設に必要な道具をいろいろと手作りしてくれています。ウェットスーツを掛けているラックも、釘を一切使わずに、竹のビスを用いて全て竹で作ってくれました。
プラスチックや金属を使わないように意識しているということですか?
佐藤さん:そうですね。潮風の影響で人工物だと劣化が早く、竹の方が長持ちするため合理的だという理由もあります。ただ、基本的には「脱プラスチック」で、地域の資源を工夫して活用するように意識しています。
なるほど、こうした地道な取り組みが海洋環境を守ることにもつながってくるというわけですね。小松野さんのお仕事についても、教えていただけますでしょうか。
小松野さん:主に会計と物販を担当しています。根浜のレストハウス内には「サステイナブル・ショップ」という売店があるのですが、商品の選定からレイアウト、事業者さんとのやり取りはもちろん、プロモーションのための商品案内のPOP作成などもしています。他にも、キャンプ場のピザ窯を使ったピザづくり体験や、マリンアクティビティのガイドなども担当しています。
あのおしゃれなPOPは小松野さんの手作りだったのですね!レストハウスの売店は、どのような点で「サステナブル」なのでしょうか?
小松野さん:販売する商品は、地産であり、かつ商品のコンセプトや材料などに事業者さんのこだわりが見えるものを選んでいます。例えば、薪を販売している「ごじょる」さんは、高齢者の方や障害がある方に「薪割」を仕事として提供し、その成果物を販売することで、福祉事業に取り組んでおられます。地域材の活用という点でも、地域の雇用を生み出す点でも、地域に貢献している商品です。このようなストーリーを伝えていくのも、私たちの役割だと捉えています。
なるほど、キャンプ場併設のただの売店というわけではない、ということですね。佐藤さんのお仕事についても教えていただけますでしょうか。
佐藤さん:漁業をはじめとする地域の方々との連携や、施設全体のマネジメント業務の他、シュノーケリングなどのインストラクターもしています。特にキャンプ場は、根浜地区の方々の話し合いの拠点として使っていただくことも多いので、必要に応じて人をつなぎながら、お手伝いをさせてもらっています。私たちも町内会のみなさんには、見守っていただいていて、地域とともにある施設だと感じています。
震災前にも、根浜海岸にはレストハウスがあったそうですね。
佐藤さん:そうですね。地域の方々は、かつてのレストハウスの「復活」を喜んでいて、気にかけて良く声を掛けてくださいます。特に根浜町内会の事務局の方が立ち上げられた、一般社団法人根浜MINDさんには、芝生の手入れをお手伝いいただいたり、漁業体験プログラムに協力いただいたりと、業務レベルでもお世話になっています。
さきほど「地域連携」とおっしゃっていましたが、具体的にどのようなことをされているのでしょうか?
佐藤さん:例えば、地元の漁師さんによる漁業体験や、小型定置網をシーカヤックやSUPで見学に行くツアー、飲食店などではなかなかお目に掛かれない「わかめしゃぶしゃぶ」の提供など、地域の方々の力をお借りして、ローカルな体験を楽しんでいただけるプログラムをご用意しています。
漁師さんは、消費者との接点が日常ではそれほどありません。「すごい!」「美味しい!」という声を直接聞くことは、地域の方の誇りや愛着を育む機会にもなると感じています。
ありがとうございます。次に、仕事のやりがいについて、お聞かせいただけますでしょうか。
三上さん:目の前でお客さんに喜んでもらったときですね。最近だと、千畳敷トレッキング中の休憩で、コーヒーを振る舞ったところ「人生で一番おいしかった」とおっしゃってくださいました。また、獲れたてのホタテを「美味しい!」と食べてくださっているのは、見ているこちらまで嬉しくなりますね。釜石でずっと育ってきたので、地元のものを褒めていただけると、喜びもひとしおです。
小松野さん:震災でできたものも含めて、「つながり」を活かして仕事ができているなと感じられたときが、一番嬉しいですね。震災後いろいろな方の努力によって築かれてきた土台の上で、地域の人と一緒に活動できる環境は、やりがいもあるし、ありがたいなと感じます。
最近そのような「つながり」を感じた、具体的な場面はありましたか?
小松野さん:最近では、地域の方とともに「あおぞらパーク」という、子どもたちの遊び場になるイベントを何度か開催しました。当社も含めて7つの団体で実行委員を組織したのですが、これもつながりがあったから実現したことです。子どもたちの楽しそうな様子だけでなく、親御さんからも大変感謝していただけて、やれてよかったと心から思いましたね。
そのイベントは、どのような趣旨で開催されたのでしょうか?
小松野さん:コロナ渦で、子どもたちも大人も外出したり、外で遊ぶことが減りました。その結果、子どもにかかる心理的ストレスや、運動不足が問題になっていたと思うのですが、その状況が東日本大震災直後の様子と重なりました。どうにかして子どもたちが安心安全に遊べる場所を作りたいという話になり、当社も実行委員の一員として活動しました。
地域との関わりというお話ですと、他にも根浜海岸の「海開き」にも関わられたと伺いました。
佐藤さん:そうですね、震災から10年以上かけて、根浜海岸の砂浜が復活しました。その記念すべき海開きも、地域の方々とともに運営を行いました。観光地域づくりの拠点として、外からのお客さんをもてなすだけでなくて、地域の方にとっても意義ある場になるように、その想いを実現するサポートをしています。
佐藤さんのやりがいについても、教えてください。
佐藤さん:お客さんも笑顔で、地元の人も元気をもらっているそんな場面に立ち会えるのが一番のやりがいです。特に、漁師さんは寡黙な方も多いのですが、表情からお客さんの反応を喜んでくださっているのが分かります(笑)。漁業体験では、お客さんが来る度に毎回違う話をしてくださったりもしますし、何かを「伝えたい」という想いがあるのだと思います。そのような場をプロデュースできているのは、やっぱり嬉しいですね。
まさに三方よし、といった感じですね。最後に、キャンプ場の今後についてお聞かせいただけますか。
佐藤さん:マリンアクティビティに関しては、地元の子どもたちが海に親しむ拠点として、公認のスクールを目指しています。そのために、弊社のスタッフだけでなく、地域の方々でもガイドのライセンスを取得できるように認定を受け、これまでに8人のガイドを輩出しています。
海であれ、地域であれ、子どものうちに親しむことで、大人になってから、また戻ってくることにつながると感じています。そのためにも、まず子どもたちに、この豊かな自然環境を満喫してもらうことが大切だと思っています。
小松野さん:根浜のキャンプ場が、サステナブル・ツーリズムやSDGsの発信地になっていけたら、と思います。既に、紙コップや割り箸の使用は止めていて、ペットボトル飲料も提供していないなど、ゴミを極力減らすことに関しては、「当たり前」として取り組んでいます。一方で、それは世間や釜石の「当たり前」には、まだなっていません。この場所が海や山とともにあることを活かして、できるところからサステナブルな取り組みを増やして、発信していきたいです。