東日本大震災からの早期復興と新しい観光地域づくりを具体化するための指針として「釜石市観光振興ビジョン」が2017年に策定され、かまいしDMCは観光地域づくり法人(DMO)として戦略の実行役を担ってきました。ビジョンの策定から約10年を迎えるなか、かまいしDMCが果たしてきた役割について、小野共市長と河東英宜代表取締役が対談しました。

2026年4月20日実施 

河東代表:ラグビーワールドカップ開催で賑わっていた2019年度の宿泊者数は16万5000人で、2023年度は15万1000人でした。復興予算の減少や市内のベッド数の減少など条件は異なりますが、もうひと伸びほしかったところです。また、昨年は相次ぐ津波警報やクマ騒動にも振り回され、観光関連事業者はとても厳しい環境下に置かれました。

 ただ、そうした中でも、市長がおっしゃるように学びの地としてのブランド化にある程度成功したことから、教育旅行・企業研修の受け入れ件数は256件、体験プログラム参加者数は4172人となりました。計画を立てた当時のKGI(重要目標達成指標)である教育旅行・企業研修の受け入れ156件、体験プログラム参加者1545人はかなり前に達成できており、今年度は新たな目標を設定することになります。

小野市長:釜石はいわゆるメジャーな観光地ではありませんが、釜石への最初の接点をつくってくれる大きな役割を果たすのが観光であり、市の大きな課題である人口減少の突破口になる可能性を感じています。観光振興ビジョンを策定した2017年に約3万5000人だった人口は現在、2万8000人を下回りました。もちろん企業誘致等の対策も行い、実際にいくつかの企業を誘致していますが、観光によって交流が盛んになることで地域の活力の維持が望めるほか、その交流人口が釜石と継続的に多様な形で関わってくれる、いわば「つながり人口」をもっと増やしていけるよう、かまいしDMCには市の各部門と協力して取り組んでもらいたいところです。

釜石の今後の発展のためには、つながり人口の拡大、地域力の拡充、人材の育成が重要です。その中でも、つながり人口の拡大は第一のステップとして大切にしたいと思っています。歴史的に釜石は外から来た人たちの知恵や経験をまちの発展の力に変えることが上手でした。安政4年(1857年)に盛岡藩士の大島高任先生が藩士を引き連れてやって来て、大橋地区で鉄の連続生産に成功し、近代製鉄発祥の地としての礎を築きました。イギリス人技師ともうまく付き合った。官営の製鉄所を民営化して誕生した釜石鉱山田中製鉄所の初代所長は静岡県の出身です。

 そうした流れや市民性は今に残っていて、今後の釜石の発展を考える時、この原点を貫きたいと思っています。かまいしDMCが取り組んでいるワーケーションなどの取り組みはその基礎になるものだと思っています。

河東代表:かまいしDMCは、地域DMOとして釜石オープン・フィールド・ミュージアムのコンセプトのもと、来訪者への学びを提供する多くのプログラムを造成してきました。つながり人口をさらに増加させるためには、この学びのプログラムを提供できるガイドとなる一般市民の方々が、さらに観光に関わっていく必要があります。幸いにも漁業・林業関係者など一次産業に従事される方々がガイドの役割を果たしてくれていて、伝統的な観光地ではない釜石でも誘客できる要因になっていますが、この取り組みをさらに広げていかなければいけません。そういう意味でも、若い世代の市民に釜石について理解をより深めてもらう「釜石オープン・フィールド・カレッジ」は意義深いと思います。

小野市長:来訪者に釜石で学んでもらうことはもちろん重要ですが、市民にも釜石の魅力をより深く認識してもらい、住まう誇りを持ってもらうことが、市の活力につながります。それゆえオープン・フィールド・カレッジを立ち上げました。市内の中学生と地域で働く人をつなげ、地域の多様な仕事を知ってもらう職業体験会を開催したり、市民に釜石の魅力を知ってもらうイベント「Meetup Kamaishi」を定期的に開催しています。事業の成果もあって、市民アンケートで10代・20代は他の世代に比べ「釜石の未来に対する希望」へのポジティブ回答がとても高い結果となっています。昨年度から米ミネルバ大学が釜石をケーススタディの場に選んでくれたことも大きな成果です。

河東代表:ミネルバ大学を迎えた際の市長の英語スピーチは素晴らしかったです。大学側も驚いておりました。世界各地をケーススタディの場としているミネルバ大学が、釜石を学びの地として選んでくださったのはとても光栄で、その他にも海外からはJICA関連や国際協力機関の来訪が増えています。

小野市長:実はオープン・フィールド・カレッジには、若い世代だけでなく、高齢者にまちづくりへ積極的に参加してもらうための一つの手段だと期待しているんです。今、町内会の役員や消防団などのなり手がいないといわれていますが、知恵や経験やコネクションを持つ人たちにまちづくりにいかに参加してもらうかが、つながり人口の拡大と並ぶ2本目の柱であり、地域力に直接関わってきます。つまり、自分たちのまちを自分たちで盛り上げ、つくり上げる機運をどれだけ引き出すことができるかが、次の15年、20年のまちの発展に強く関わってくると思っています。

 ただ、市職員だけで課題を解決するのはすごく難しくなっています。かまいしDMCをはじめとする民間の団体と連携を深め、課題を共有し、ワンチームで取り組むことが必要です。

河東代表:オープン・フィールド・カレッジに加え、釜石を学びの地としてさらなる定着を目指す施策である「釜石オープン・フィールド・ラボ」も、研修施設「NEMARU PORT」開設を機にこの1年で早くも成果が出始めました。

小野市長:釜石には多くの企業が研修で訪れてくださっていますが、そのつながりをこれまでは活かしきれていませんでした。釜石の地域課題を共に考え、地域共創に取り組むのがオープン・フィールド・ラボで、釜石鵜住居復興スタジアムの運営をテーマにした任意団体「チームうのすたトライ!」の企業間連携は、大学ラグビー部合宿の大型誘致にもつながりました。関係各社が知恵を絞り、持っているソリューションを活かし合うのは釜石にとって、とてもありがたいことです。

研修施設「NEMARU PORT」

河東代表:スタジアムの特別室で、市長と企業の皆さまがラグビーの試合を見ながらスタジアムの運営を考えるという、新しい取り組みでした。この他にも、MICEとして600人規模の学会誘致や芸術大学との連携、首都圏大企業による防災グループの設立など、学びの地をキーワードにつながり強化に努めています。このように、釜石が学びの地として評価され、かつ海外からも持続可能な観光地として認められつつあることについて、市長はどのように感じていますか。

小野市長:釜石は鉄と魚とラグビーのまちですが、そのような代表的なコンテンツのみならず、体験できることがたくさんあります。東日本大震災の際に力を発揮した防災教育、震災後のまちづくりや力強いレジリエンスから学び、感じていただけることは多いと思います。また、環境省の脱炭素先行地域にも選定された釜石では、市全体で脱炭素への取り組みが進んでいます。自然との密接な関わりが体感できる釜石で、実体験として脱炭素について学ぶコンテンツが充実してきたことが評価されているのだと感じています。

河東代表:釜石市にとって、かまいしDMCはどのような存在でしょうか

小野市長:観光の分野だけでなく、幅広く地域づくりに貢献してもらっています。特に首都圏企業との地域共創の側面では、これまでの企業研修で得たつながりを活かして、先ほどのとおり、釜石鵜住居復興スタジアムの利活用を検討するコンソーシアムを立ち上げたり、あるいは米ミネルバ大学と市内の飲食店をつなげ共同で商品開発を行ったりと、地域内外をつなげるハブのような役割を果たしてくれています。今では、市の商工観光課だけではなく、総合政策課、生活環境課、水産農林課、文化スポーツ課など、さまざまな部署と連携し、多くの事業に関わってもらっています。

さらには、さまざまなデータ分析に基づくマーケティングを活かし、インバウンド観光客の誘致に取り組んでいるところも、市に良い影響をもたらしてくれています。近年、みちのく潮風トレイルを歩くインバウンド観光客が増えていますが、SNSを活用したプロモーションや、環境保全とトレイルを掛け合わせたプログラムの造成を通して、さらなる誘客につなげてくれています。

河東代表:ありがとうございます! みちのく潮風トレイルは海外からも注目されている反面、「どうしてこんなに海外の方が歩いているの?」と地域の方から聞かれることも多く、馴染みが薄い部分もあるため、商工観光課とともに市民向けのトレイルイベントを開催することで認知度向上にも努めております。 最後に、これからのかまいしDMCに対する期待をお聞かせください。

小野市長:民間の感覚と力をすごく頼りにしています。公務員とは全く違った考え方をまちに取り入れる必要がありますし、人材交流などを通じて民間の考え方を知り、市職員に新しく柔軟な考え方ができるきっかけになればいいと思っています。職員には、大学とのパネルディスカッションなどの場にも積極的に参加したらいいという話をしています。市役所という行政機関だけでまちづくりをする時代ではなくなっていますので、ワンチームでさまざまな機関と情報や課題を共有しながら対応に当たっていく必要があります。

 その中で1つの大きな柱になるのはやはり、かまいしDMCだと思っています。もう何年も前のことですが、河東社長が「今後のテーマは観光です」と言われた時にはっとしました。その次には「環境です」と。今、まったくそのとおりに世の中が動いています。行政には行政の得意分野があり、民間の人たちにはアンテナの高さや情報の早さを頼りにしたいと思っています。

 今後も地域内外をつなげ、つながり人口の増加に力を入れていただきたい。継続的なつながりを生んでいくことで、地域の活力を引き出し、市民の住まう誇りの醸成に寄与してくれることを期待しています。観光物産協会や商工会議所などの関係機関との連携強化も引き続きお願いします。

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